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シルク・マガジン

愛媛シルクに関わる人や、シルクプロダクト、地域などの多様な魅力と、旬な情報を伝える愛媛シルクオリジナルマガジンです。

愛媛シルクプロダクト1:瀧本養蚕の「おおず繭せっけん」

祖父が営む養蚕業に就農。瀧本養蚕5代目瀧本慎吾さん

愛媛県大洲市で養蚕農家を営む瀧本慎吾さん。
2018年7月の西日本豪雨(平成307月豪雨)で、祖父亀六さんが営む養蚕場が甚大な被害を受けたことを機に、その伝統を受け継ぐことを決意。翌2019年に24歳で就農しました。現在は瀧本養蚕の5代目として、亀六さんと共に年間1トンを超える繭を出荷しています。

シルク・マガジンでは慎吾さんに、養蚕と祖父への思い、そして新たに取り組むシルクプロダクトの開発について聞きました。

瀧本養蚕と養蚕業については、こちらの記事もご覧ください
「愛媛の2大養蚕地をめぐる その2:大洲市 瀧本養蚕」

豪雨被害からの復興と、新規就農への道

-愛媛の養蚕地として栄えた大洲市ですが、2021年現在、市内に養蚕農家さんはわずか2戸しか残っていないそうですね。そのような状況の中でなぜ、慎吾さんは養蚕業を継ごうと思ったのでしょうか?

慎吾さん
西日本豪雨で被害を受けていなかったら、就農の道はなかったと思います。
それまで、祖父の養蚕業を継ごうとは思ってもいませんでした。正直、興味もなくて。
一般企業に就職していたので、家には寝に帰るだけの生活でしたし、じいちゃんは早朝から働きに出ていて、話す時間もほとんどなかったんです。
でも、あの西日本豪雨で約15万頭のお蚕さんが全滅してしまって、祖父はさすがに落ち込んでいました。「もう養蚕を続けられんかな」と母に言っていたそうです。
被災後すぐ、ユナイテッドシルクや愛媛シルクのみなさんが来て復旧を手伝ってくれました。異臭がする散乱した蚕舎を一緒に片付けてくれて。
たくさんの人が応援してくれているんだと感じましたし、そのときにシルクが化粧品や医療品にも使われて、注目されていることを知りました。
祖父は「もう一度頑張ってみようか」と。自分も、ここにはじいちゃんが守ってきた養蚕の技術も場所もすべてが揃っているんだから、違う用途で使われるのは寂しい、やっぱりお蚕さんで使わないと、と感じて。それでやってみよう、と。

蚕舎を清掃する愛媛シルクメンバー

-西日本豪雨をきっかけに、養蚕業を継ぐことを決意されたのですね。亀六さんやお母さまの反応はいかがでしたか?

慎吾さん
じいちゃんにはやめろと言われるかな、と思ってたんですが「やったらええ」と。母も賛成してくれました。
それで、勤めていた会社を辞めて、翌年の4月から養蚕農家の道に入ったんです。
実は、じいちゃんも24歳で就農していて、もうこれは運命なんかなと思いますね(笑)

養蚕と祖父への思い。伝統を受け継ぐということ

-今年で養蚕業をはじめて3年目になりますが、いかがですか?

慎吾さん
大変な重労働だと思います。特に年4回の養蚕の時期、お蚕さんと過ごす4週間は無になりますね。
3時半に起きて、お蚕さんに桑の葉を与えて、仮眠をとって、8時頃には昼食用の桑の葉を取りに畑に出かけて、また仮眠をとって、12時にお蚕さんに餌やりをして、それから夜と翌朝分の桑の葉を取りに行って、19時にはまたお蚕さんの夕ご飯。
自分が帰宅するのは21時頃で、また翌朝は早朝からはじまります。
お蚕さんが最優先ですね。1日が3日分くらいある感覚で。終了後のビールを楽しみにやっています(笑)

-慎吾さんにとって亀六さんの存在は、養蚕を始める前といまでは変わりましたか?

慎吾さん
じいちゃんと黙々と、2人で作業をしているのですが、やっぱりすごいなと思います。養蚕について学ぶのは、じいちゃんからの口伝のみなので、見て、聞いて、ときに「こんなふうにしたらもっと良いんじゃないか」と言ってみたり。聞いてもらえなくて喧嘩もしながら(笑)以前はこんなに話すことがなかったですね。

慎吾さんのノートには、養蚕に関わるメモがぎっしりと書き綴られている

79歳になるじいちゃんにはぜんぜん敵いません。雨が降っていたり疲れたときには自分は休みたくなるんですけど、祖父は全然休まないんです。
常にお蚕さんのことを考えていて、雨が降ったら道具の修理をしたり、晴れたら畑の管理をして。それからお蚕さんのことをよく見に行っています。いまも、畑に行っているんですよ。
周りの養蚕農家がどんどんやめていく中で、祖父が続けてきたことが基盤になっています。じいちゃんあってこそ。この受け継がれてきたものを、いまはすごく実感しています。

-お蚕さんは、慎吾さんにとってどんな存在ですか?

慎吾さん
養蚕農家にとって、お蚕さんは別格の存在です。
蚕は「頭」と数えて、虫ではなく大切な家畜という扱いなんですよ。
養蚕の時期は、きれい好きなお蚕さんを迎え入れる前には養蚕部屋をきれいに消毒しますし、桑の葉も無農薬で、食べる直前に収穫した新鮮なものを与えます。
温度調整が徹底された部屋で、気持ちよく成長してもらいます。自分たちは寝て食べるだけ、新鮮な桑の葉が上から降ってきますからね(笑)
でも、こうしたていねいな関わり合いが、繭になったときに重さだとか、品質の良さだとか、結果に出てきます。立派な繭になったら、養蚕農家も生計を立て、続けていくことができます。お互いに持ちつ持たれつの関係性だなぁと。命をいただくのだから、それをきちんと使い切る責任があると思います。

シルクの新たな可能性と、瀧本養蚕の挑戦

-愛媛シルクへの期待や、参画しての思いをお聞かせください

慎吾さん
やっぱり魅力があると思います。
これまでは糸として着物や布団などに使う印象のシルクが、成分を抽出してシャンプーや化粧品になるとは思いませんでした。シルクのシャンプーを毎日使っているんですけど、ツヤツヤして、その良さを実感しています。
愛媛シルクを通じてシルクの可能性をたくさん知ることができましたし、シルクってすごいんだ、と生産者としてのモチベーションになっています。
いろんなメディアの方にもきてもらっていますし、もう途中ではやめられないな……という感じですね(笑)

-いま、愛媛シルクでプロダクトづくりにも挑戦されています

慎吾さん
今年5月に、愛媛シルク協議会さんからシルクのプロダクトを作らないか、というお話をいただきました。
養蚕農家としての取り組みに軸はおきつつも、シルクの魅力を知ってもらいたいという思いがすごくあったので、気軽に手に取ってもらえるような商品を作れたらいいなと思っています。いまは、石鹸を作ろうと企画を進めています。
商品開発は初めての取り組みで、右も左もわからず売れるものが作れるかという不安もあるのですが、愛媛シルクのみなさんから開発のための知識を教えてもらったり、デザインの支援をしてもらって一緒に作れるのでとても心強いです。

プロダクトの紹介:瀧本養蚕の「おおず繭せっけん」

大洲市は古くから養蚕業が盛んな地域で、県内の繭生産量の60%を占めています。
これまで瀧本養蚕で生産してきた繭は県外の製糸場に送られ、出荷したほとんどが真綿布団として活用されてきました。
今回は、ご自身初のオリジナル商品の開発に挑戦し、「おおず繭せっけん」を作りました。シルクは天然の保湿成分が豊富に含まれており、肌のバリア機能を損なうことなく洗浄することができます。
繭をモチーフとした可愛らしいキャラクターをあしらい、気軽に手にとってもらいやすく、手作り感や丁寧さが感じられるパッケージを目指しました。
シルクに馴染みのない人たちにも使っていただき、生産者としてシルクの良さを広く伝えていけたらという願いを込めました。

瀧本養蚕
795-0031愛媛県大洲市多田甲583-3

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