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シルク・マガジン

愛媛シルクに関わる人や、シルクプロダクト、地域などの多様な魅力と、旬な情報を伝える愛媛シルクオリジナルマガジンです。

愛媛の2大養蚕地をめぐる その1:西予市 野村シルク博物館

この記事は、2021年7月に取材した内容を元にまとめています

町を挙げてシルク文化を継承する西予市

 

明治3年頃、野村地方(現・西予市)で近代養蚕業がはじまりました。 四国山脈から流れ出る河川周辺には桑畑に適した肥沃な土地が多くあり、収益性の高い養蚕は急速に普及。野村町はシルクの町として知られるようになりました。 近年のシルク産業の衰退とともに、西予市の養蚕農家数も激減する中(2021年には6戸のみ)、西予市では平成6年に「野村シルク博物館」を設立。 町を挙げて養蚕業の振興と製糸技術の継承、シルク文化の情報発信に取り組んできました。

国内に4カ所、西日本に唯一残る繰糸場を訪ねて

 

野村シルク博物館内にある「織物館」は、国内に4カ所残る製糸工場のひとつ。 西日本では唯一現存する、繭から生糸を繰糸する繰糸場です。

地下にある繰糸室では、今では国内唯一の実稼働となった多条繰糸機を用いて熟練の製糸職人が生糸を紡いでいました。 その生糸こそ、古くから皇室や伊勢神宮の式年遷宮の御料糸に献納されてきた愛媛の「伊予生糸(いよいと)」です。

伊予生糸ができるまで

 

ひんやりとした低温貯蔵庫に入れてもらうと、中には今年の春にとれた春まゆがずらり。

製糸原料として向いている繭だけが選別される「選繭」という工程を経て、冷蔵庫に貯蔵されています。白く美しい繭たち。

ここでは、繭を加熱乾燥せず生の状態のまま冷蔵保存(5℃~6℃)することで、カビの発生を抑制しながらタンパク質を変性させないようにしているのだそう。 昔ながらの「生繰り法」と呼ばれる製法で作られる糸は、本来の風合いが活かされた高品質の生糸として高く評価されてきました。

とても珍しい天蚕とよばれる野蚕の繭もありました。薄いグリーンがなんとも綺麗です。

次に、多条繰糸機を使った繰糸の工程を見学させていただきました。 写真は「煮繭」といって、お湯と蒸気によって膨潤軟化させた繭。この煮繭の温度や時間も季節や日によって微妙な調整が必要なのだとか。

繭の表面を索緒箒というほうきで擦って、繭糸の一本の糸口を見つけ出しています。 この工程を「索緒・抄緒」といいます。

初めに繭から出てくるゴワゴワとした繊維。 愛媛シルクのポータルサイトを読み込んでくださった方ならご存知の「きびそ」です。

きびそは生糸にはならず、これまで廃棄されることがほとんどでした。愛媛シルクではこのきびそも貴重なシルク繊維として活用しています。

繭から1本ずつ細い糸が出ているのが見えますか? これは「操糸」といって、何本かの糸を合わせて1本の生糸にする工程です。

このときは9本の糸が一本に合糸されていました。 9個の繭で1本の糸にする場合は21デニールと、作りたい糸の太さによって繭の数を変えていきます。

合糸された糸が小枠に巻き取られていきます。 多条繰糸機を使うことで、低速で生糸にかかるテンション(張力)を抑えながら繰糸でき、ふんわりと柔らかいと同時にハリやコシがある生糸になっていくのだそうです。

繭から出る糸を製糸職人さんがまとめて持ち、頃合いを見ながら多条繰糸機に手早く繭をセットしていきます。手間暇がかかるだけでなく、熟練の目と技が必要になる工程です。 一日中水仕事をする職人さんですが、「シルクから溶けてくる成分のおかげか、手荒れしらずです」と教えてくれました。つるつるしっとりとした美しい手!

繰糸機で小枠に巻き取った糸を一定の重量、長さになるように大枠に巻き取る「揚返」という工程を経て、つややかで美しい生糸の束ができあがりました。

一括と呼ばれる単位にまとめられ、生糸は出荷されていきます。 ここまでの工程を、製糸職人さんがすべて担っているのだそうです。

高く評価されてきた伊予生糸の理由

野村シルク博物館のwebサイトにはこう記されています。
—四国山系をその源とする水を使い、愛媛県産の繭を多条繰糸機を用いて低速で繰糸した生糸であり、他の産地の一般的な生糸と比べ、白い椿のような気品のある光沢があり、嵩高でふんわりと柔らかい風合いを有します。 織物業者間でも、伊予生糸は着物などに求められるシャリやコシ、ハリ、膨らみなど一般に風合いといわれる柔らかさと暖かさがあり、着物では着崩れしにくく、帯なら締り具合が良いなど、別格として高く評価されています。
— 伊予生糸が愛され現代にも続いてきた理由には、品質のために労力も時間も惜しまない製造工程と、そこに宿る伝統、職人技術があったことを改めて知ることができました。 繭からとれた生糸の1束がすべて一本の糸でつながっていることが奇跡のようにも感じます。

野村シルク博物館には、繭から糸を繰り、染色をし、機を織る作業場もあります。一般のお客様でも講座の受講や体験ができるそうです。 絹織りに魅了され、都心から移住される方もいるそうですよ。

蚕糸業等にかかわる歴史的資料や繭・生糸の生産に関わる貴重な資料も見学することができます。 野村シルク博物館、時間をたっぷりとって、ぜひ一度訪ねていただきたい場所です。

西予市野村シルク博物館
https://www.city.seiyo.ehime.jp/miryoku/silkhakubutsukan/index.html

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